美容師の素質とは、一言で述べると指先が器用なことではないでしょうか。それも単に器用なだけでなく、指先に、まるで「目」が付いているかのような繊細さ。
そんな数少ない美容師に出会ったのは、私が20代の頃。場所は原宿の交差点そばの裏道を一本入った美容院。
その美容師のシャンプーは、単に頭をモノ扱いしているのではなく、脳に癒しを与えるかような、今まで感じたことのない不思議な心地よさでした。
タオルでゆるく包まれた頭。なのに決して崩れないタオル。手際の良さがまるでマジシャンのようで、ただ呆然とその流れに身を任せていたのを今でも覚えています。
ハサミと櫛だけで、あっという間に変化していく鏡の中の自分。
一本ですら髪が引っ張られたり、引っかかったり、一切の不快感のない柔らかな時間。
無駄口を叩かず、客からのヘアスタイルの要求に静かに耳を傾け、手がお留守になることなく、優雅に華麗に舞うハサミ、櫛。お喋りには的確な同情感溢れる返事をよこし、会話はいつもスムーズ。
鏡に映る彼の佇まいこそ、カリスマ美容師と呼ぶべきものだと、あれから20年以上経った今でも同じように思います。
女性にとって、美容院は癒しの場。美しい魔法のかかる鏡の間。その空間に相応しい美容師の素質と品性は、いつまでも客の心をとらえるのでしょう。遠方から来る客が後を絶ちません。
あれから20年以上。当時まだ若かったその美容師は今では親友であり、彼は恋をし、結婚し、優しい父となり、今でも静かな佇まいで髪を柔らかく扱っています。
私が体調を壊しやすい時期には可愛い子供さんを連れて、少ない休日にも関わらず、家にまで訪問してくれ、私と母のカットをしてくれるのです。
どんなに有難いことか。
美容師の、素質と品格を備えた人と巡り会えたら、それは人生の宝物ですね。