日本で言えば銀座四丁目の、サイゴンの目抜き通り。
そこから一筋入ったところに、可愛い雑貨屋さんがあるのです。
日本人の客が多く、店長も店員も日本語が話せるので、ヴェトナム旅行に疲れた御一行が、なんとなく安心してホッと出来る小さなお店なのです。
客に椅子を出してくれて、ゆっくり見てください、との店長の配慮が優しく、母と二人で夕刻お店に入るとすでに、日本人のおばさま方が、7人ほどご休憩されながら、雑貨を眺めて雑談していらっしゃいました。
皆が皆、快活な60歳くらいで、色が黒く日焼けしているので、ゴルフかテニスのお仲間なのかもしれません。わたしは軽く会釈しました。
その中の一人が、店長に
「この真珠のネックレスをさっき買ったのよ〜」
と見せています。
「どこで買ったの？」
「すぐそこの、◯◯のお店」
「いくらしましたか？」
「4万円だったわ〜♡」
ええ？！4万円？！サイゴンで4万円とは高額だわ、と内心驚いて振り返ると、おばさま方と目が合いました。どうやら一粒真珠のネックレスのようです。
そこに一人のお仲間が、
「10%も安くしてくれたのよね〜だから36,000円だったよね」
と、会話に入ると
店長が手にとって眺め
「高いですね」
他のお仲間が
「ホンモノのパールだと言っていたわよね」
また別のお仲間が
「淡水パールって言ってたじゃない！」
更に別のお仲間が
「淡水パールだったの？！」
店長が
「淡水パール？これ違いますよ、ニセモノです」
皆一同に
「えーーー？！」
店長が
「わたしはすぐに分かります。
これは淡水パールではありません。つくったモノです」
お仲間が
「作ったもの？ニセモノに作ったの？」
買ったご本人が
「えー？ニセモノ？困っちゃう」
お仲間が
「この人お誕生日なのよ、今日がね。だから買ったの」
別のお仲間が
「そうなの、記念なの、お誕生日の記念ね！」
買ったご本人が泣きそうになって
「誕生日なのに、ニセモノは嫌だわ〜」
お仲間が
「デザインが気に入っていたじゃない。ニセモノかわからないわよ！」
店長が、
「そうですか、でもこれ違う、あのお店はニセモノ多いですよ」
すると別のお仲間が
「自分が気に入ったのだからニセモノでもいいじゃない」
別のお仲間も
「そうよ、自分へのご褒美なんでしょう？」
また別のお仲間が
「ニセモノって言っても見分けがつかないくらいなんだから、それがスゴイじゃないの！」
また更に別のお仲間が
「プラスチックじゃないのだから〜！」
また更に別のお仲間が
「プラスチックでも、ここまで精巧に出来ているなんて大したモノよ」
店長が
「真珠を買う時にはわたしに相談してください。ニセモノいっぱいです。ホンモノが安く買えるところ知っています」
するとお仲間達が一斉に
「どこどこ〜？」
店長が
「今日はもう夕方だから行けない、また来て。教えます」
お仲間が
「店長って何でも知っているのね〜これからは何でも聞いちゃおう！」
一同が
「そうね、そうね！」
話は店長がすごい目利き、ということで幕を閉じ、誰一人として、お誕生日の彼女が買ったニセモノを、店に返しに行こうという友はいませんでした。
買った店は、すぐそばなので、女子力アップ中のわたしは、
「ニセモノだから返しに行きませんか？」
と、うなだれている女性に話しかけようかと喉まで出かかったのですが、友人6人が誰一人その言葉を発しないので、見ず知らずの通りすがりが、お人好しのおせっかいにならないよう、数点の雑貨を買って、おばさま集団に会釈して退散しようとしました。
すると一人の方が、私たちを見て、「もしかして親子〜？」と話しかけるので、母が「そうです、娘ですよ、もう数えきれないくらい二人でサイゴンに来てるの。」と答えると、「いいわね〜、子供と来れるなんて…うちなんかあり得ないわ！」「ホントホント！！」と皆が同調し、「いいわね〜いいわね〜」の合唱の中、店を出たのです。
男の友情はときに男女の愛より強い、女の友情とは違う、とは聞きますが、なかなか難しいものですね…トホホ…www
同じ女性として、
皆さん、長旅で疲れきっていたのだ、
と、解釈したい、と思います。
「真の友はどんな時にも愛しつづけるものであり、苦難の時のために生まれた兄弟である」
ーバイブルよりー
