癒されるモノ・トコロ・ヒト

逗子に暮らす作家がおすすめするアラフィフ生活

(イタリア紀行①)フィレンツェ グランドホテルバリオーニ

 

パリからアメリゴ・ヴェスプッチ空港に降り立つ。着陸間際、上空からの景色は統一感ある色合いの、愛してやまないフィレンツェそのものであった。

 

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日本人が私達二人だけだったからか、税関で、ゴロつきのような風貌の職員に呼び止められ、

「いま日本円を幾ら持っているか!」

と英語で怒鳴る。一瞬、ローマの裏道で恐喝にあった昔を思い出した。どうやら大トトロは外見だけは金持ちに見えるらしい。柔らかなフランス語に慣れてきたところだっただけに、けたたましいイタリアなまりの英語に脅されたかのように感じる。そういう時大トトロは決して動揺しない。幾ら持っているかを真剣に頭で計算しているのだ。そして「アバウト ファイブ ハンドレッド ユーロ」 とはっきりと答えた。

「500€??」

ゴロつき風の職員の目がクリクリ動き、そのあと大トトロを哀れそうに眺めて諦めたかのように去って行った。

500€と言えば6万円くらいだ。

動揺したのは私の方だ。

「それしかないの?」

「ないよ」

びっくり。

カード社会とはいえ現金がそれだけとはちょっと不安になった。チップをはじめカードで支払えないものがかなりある。円を€に変える手数料も相当だ。あと1週間イタリアに滞在出来るのだろうか。

 

空港バス停の右奥にあるタクシー乗り場に向かう。30分くらいでフィレンツェ駅前にある懐かしいホテルバリオーニに到着した。タクシーは現金払い。チップを含めて30€。

 

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若くてリッチな頃は、アルノ川沿いのエクセルシオールに宿泊したものだが、今や高額な上に立地が不便。ホテルバリオーニは駅に近い上に市場にもシニョリーア広場にも歩いて数分の距離である。

 


チェックインを済ませて、部屋に通される。ベッドにひっくり返ると、太い梁が天井を縦横している。

 

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昨夜まで、白金サーモンピンクで覆われた贅沢なホテルリッツに滞在していたので、いきなり牢獄に幽閉されたマリーアントワネットの心境になった。老舗のバリオーニは良いホテルであるが、パリの一流とはまるで違う佇まい。

 

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それでも環境の変化にすぐに慣れ問題なし。市場へと繰り出す。市場には以前仲良くなったロレンツォという名のイタリアーノの革コートの店があった。市場も店の並び順が変わり、どの店だったか見当がつかない。「ロレンツォいない?友達なの」などと市場のお兄ちゃんに声をかけても、「ロレンツォなんて名前はそこらじゅうそうさ!」みたいな返事。あの頃ハンサムだったロレンツォも今は髪も薄く体型も丸くなってすれ違っても気づかないだろう。お互い様ではあるが…。市場ではいつもお気に入りのトレーを買う。木材で出来ており、手描きの絵付けで可愛い上に軽い。結構これが重宝するのだ。

 

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あとは、大トトロがかぶっているヴォルサリーノの帽子。何故か彼に似合わない。昔ミラノで買ったものだが、頭より帽子が大きすぎるのである。市場には安価でカッコ良い帽子が幾つも並んでいる。小さめの帽子をゲットして頭にチョンと載せるとやたらに似合った。まけさせて20€。

 

以前からハードロックカフェなるTシャツが世界中で流行っているが、Tシャツにその街の名がデザインされているのだ。収集癖のある大トトロは地図で目ざとくその店を探す。

 

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わたしも二つ目だが、街の名が書かれているエコバッグをゲット。こちらもまけてもらって8€。最初50€などと言っていた。

 

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まさかこのエコバッグが市場にあるとは思わなかった。大トトロがNYで買ってきてくれたエコバッグはこちら。

 

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意外に質がよく洗濯機に入れても型崩れせず重宝なバッグなのである。

 

色とりどりのパスタやチーズ、ポルチーニ茸、乾燥トマト、革製品とイタリア尽くしの目白押し。どれも日本のものよりかなり安い。

 

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市場での買い物はこれくらいにして、ランチタイム。フィレンツェといえば、私の中での最高峰三つ星は北京飯店しかない。ホテルから市場へ向かう途中にある、いつも満席の美味な中華店。「ニーハオニーハオ!」と入店しても「ボンジョルノ!」と返ってくるイタリア生まれの中国人のお店である。

 

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とにかく美味しい。日本で、いや世界で、ここの酸辣湯を超える味に出会ったことはない。酸っぱくて辛い四川の中華スープである。

 

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10年ぶりの再会。小さかった息子さんも立派に成長し、中国人の店主も奥さんも相変わらず美男美女だった。

フィレンツェに滞在中は毎日一度か二度は、つまり昼と夜とお邪魔するので、また来たのね〜とイタリア語で席に案内されホッとできる家族的なお店。食後にはサービスで杏仁豆腐やらレモンチェッロまで出してくれる。

 

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大トトロに「ワンパターン!」

と馬鹿にされるので、

フィレンツェでここ以上に美味しいところが今までにあった?」と尋ねると、返事がないからまた北京飯店に足が向かってしまうのだ。大トトロがあそこは?と適当に指差すので、その店を眺めるとこじんまりとした小綺麗なリストランテ。北京飯店の道路を挟んでお向かいだ。目に入ったことがなかった。

 

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たまにはフィレンツェでイタリアンも食べてみようかと入ったところ、こちらもほぼ満席。メニューを見て、急にラザニアが食べたくなった。

隣のお姉さんも美味しそうなキノコのパスタを召し上がっておられる。

日本ではあまり食べないラザニア。得意だという友人のラザニアを食べても自分では作る気もしなかった。それが、いざ本場のラザニアをひと口頬張ったら、なんとまぁ、トマトに絡んだひき肉のミートソースとチーズとパスタが絶妙なまでに調合されてとろとろと口の中で解けていく。生ハムの盛り合わせも味が深い。

 

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「美味しい!!なにこれ!!

ラザニアってこんな?」

今まで食べたことのない食感に驚いた。日本のラザニアは日本のナポリタンみたいなものだ。イタリアのとは全く違う食べ物だ。「日本に帰ったら作るわ!」女子力全開。美味しいものを食べてこそ、女は腕をふるいたくなるものだ。大満足して大トトロに、また行きたい!と告げると「ワンパターン!」と笑われてその店には2回目はなかった。他の店を開拓してみたものの、やはりまた行きたいと思うリストランテは無かった。

 

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あぁ、残念!ラザニアのためにまたフィレンツェに行きたい!灯台下暗しとはこのことだ!

 

いつも長蛇の列をなしているウフィツィ美術館だが、冬の夕方は空いているのではないかと訪れると、案の定ひとっこひとりいない静けさ。入場料はひとり12€である。


こんなラッキーなことがあるかしら。展示数2500点を全て見る時間もスタミナもないので、お気に入りだけを観てまわる。誰もいない美術館。

 

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独占状態の贅沢至極。

写真撮影も自由。

 

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メディチ家の当主達の肖像画もある。

 

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ボッティチェリの春、昔はこの絵がこよなく好きでパズルまで買い込み、額に入れて飾っていたなぁ。

 

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同じくボッティチェリヴィーナスの誕生も。私の右手がチラッと写っているので、絵画の大きさが想像出来ると思う。教科書に載っていた見慣れた絵だが、初めて実物を見た時には春と同様、その大きさに驚いたものだ。

 

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パリもイタリアもそうだが、一般市民と最高の芸術がいつも隣り合わせの生活感。触ることは出来ないが、かなり近づいて鑑賞できるから羨ましい。昼間、車が行き交う道路にまで、無名の画家が絵画を描き残す町。

 

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美術館もそろそろ閉館の時間。

外は真っ暗だ。

出口を右折しシニョリーア広場に向かって緩やかな坂を歩いていると白看板に日本語で「両替、手数料なし」と筆でかかれたような不気味な黒い文字が蛍光灯に照らされている。中を覗くと、長髪のヒッピーのような痩せ細ったイタリアーノがボウッと店の中からこちらを見ている。

大トトロが

「ここで両替する?手数料なしだって。もうユーロないよ」

「ここで?!なんだか気味悪くない?正式な両替屋?Changeの文字まで手書きじゃない?」

「でもほんとユーロがない。市場と美術館の入場料に使っておわり」

「3万円替える?ここで?う〜ん偽札渡したりしないかなぁ…」

 


不安がよぎる。暗い路地で囁いている私たちをじっと奥から眺めているヒッピー。

大トトロが入店し、ガラス越しに3万円を見せる。ヒッピーが、パリのChangeと同じく、これこれの相場でこれこれのユーロになるが良いか?と紙を見せて尋ね、オーケー!と言っている模様。不気味な静けさが辺りを漂う。不安にかられ、大丈夫?と聞くと、パリと同じレートだった、と聞いて一安心。ヒッピーがひとこと流暢な英語で、

「お金をここでしまってから気をつけてお帰りください」

ヒッピー君、ヒッピーなんて言ってごめんね、人は見かけによらないとはこのことだ。イエスキリストにさえ見えてきた。かなり良いレートで両替が出来て助かった。

 


ホテルバリオーニの朝食は最上階の景色が良い大広間にある。ドゥオーモの丸屋根クーポラが見える。あのテッペンにいつか登ってみたいと思いながらもなかなか実現出来ない。辻仁成江國香織の小説「冷静と情熱のあいだ」の映画場面を思い出す。

 

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ふぅ。

「あのテッペンに行ってみたいな。テッペンに行ったら下から写真撮ってくれない?」

「いやだ、写るはずないよ。小さすぎ」

ガクッ。

「ジョットの鐘楼には登ったからね」

と私を待たせて登った昔のことを自慢している。

 

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朝食はフルーツ各種、数種類のチーズにハム、スクランブルエッグとサラダ、ヨーグルトにフレッシュジュース、と盛り沢山。どのホテルも席に着くとギャルソンが近づき、コーヒー、カプチーノ、カフェラテ、エスプレッソのどれが良いか聞きにくる。目覚めの一杯から始まるのだ。

 


夏は日が長く白夜のごとくだが、冬は日本より短く、朝7時でもまだ薄暗く、太陽が昇りかけで朝焼けが絵葉書のように美しい。

 

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このホテルは朝食より景色が美味しいのが本音である。

 

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朝陽が眩しくなり、一面のガラス張りにフィレンツェの町の風景が映し出され、赤茶色に統一された屋根瓦に歴史の深さを感じる。

          つづく

 

 

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ひと月だけのお試しあり!

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