癒されるモノ・トコロ・ヒト

逗子に暮らす作家がおすすめするアラフィフ生活

(パリ紀行⑧)突然有名人に会ったら…続成功編

 

ヴェニスから飛び立ち、パリ、シャルルドゴール空港での出来事である。

 

f:id:chopin2260:20200118104809j:image


空港ラウンジに入ると、いろいろな匂いが漂い、様々な国籍の人であふれている。まるで先週まで乗っていたパリの地下鉄と同じだ。目の前に日本人らしき人。隣の席が空いているではないか。

 


ソファに荷物を置き、着席。ようやく日本へあと一便、12時間の飛行が待っている。長旅の疲れはない。美味しい匂いがしてくるので隣のテーブルを見ると、カップラーメンを3分お待ちのご様子。

 

「美味しそうな匂いですね」

久しぶりに日本人に出会え、思わず声をかけると 

「これ美味しいんですよ。日本にも同じのあるのかなぁ」

などと言いながら蓋を開け、すすり始めた。  

 

つられてお腹がすいてきた。搭乗にはまだ3時間近くある。早速カウンターへ向かい、同じカップラーメンにお湯を注ぎテーブルに戻るとしばしスタンバイ。

 


ズルズル、ズル〜〜、隣から懐かしい日本の音がしてくる。

 


久しぶりのカップラーメンは、熱くてフゥーフゥー。乾燥した顔の皮膚が湯気で潤うのを感じながら、こちらもまたズルズル、ズル〜。

 

隣の人が

「美味しいでしょ!」

「ホント美味しい!」

お互い顔を見合わせて微笑。

 

 

大トトロはビールと各種ナッツやチーズを持ってきて、カップラーメンなんてあった?!などと、一歩遅い戯言を述べている。再びカウンターへカップラーメンを取りに行ってしまった。

 


隣の人は、パリをはじめEU圏でのビジネスが大変だったそうで、私に休暇旅行とは羨ましい限りです、と悪戯そうな笑みを浮かべる。大トトロが戻り、隣の人を紹介すると、二人も意気投合して喋り始めた。

 


二人の職場が偶然にもそう遠くないことが分かると、隣の人が

「今度東京で飲みましょうよ」

と大トトロを軽く誘い、名刺まで渡している。大トトロは名刺を持っていないことを詫びつつも、飲みましょうよ、には応答しない。元来人見知りなのだ。私なら直ぐに飲みに行くのに、隣の人は女には全く興味のないご様子。ひたすら大トトロをくどいている。

 


すると突然、

「あ!!今の見ました?!」

「え?なにを?」

「今、あのコーヒーメーカーの前にいるあの人ですよ!」

隣の人が叫んだ。

 


目をやると、カウンターに背の高い外国人の横顔。髪はロマンスグレー。わぁ!なんてハンサム!珈琲を淹れ淹れ始めた。

 


どこかで見た顔だ。

「誰?」

「サッカー元日本代表の監督ですよ。えーと、名前なんて言ったかな」

ザッケローニ監督?じゃない?」

頭の引き出しからポンと出てきた名前を出すと

 


「違いますよ〜!えーと、えーと、あ、ヴァヒド・ハリルホジッチだ!」

「え?なんておっしゃった?」

サッカー監督の名前にまで興味がなかった私は難しい名前を何度も聞き返す。 

 

ハリルホジッチですよ!

ハリルホジッチ監督ですよね?」

大トトロに同意を求めている。

顔音痴の大トトロはそうかなぁ、などと呑気に振り返って眺めている。 

 


もう一度眺める。あの顔は確かにテレビ画面で観たことがある。私は顔音痴ではない。

 


「最近まで日本代表の監督してましたよ、去年までだったかなぁ」

「サッカー部だったでしょ」 

「そうですよ、なんで?分かります?」

「いかにもそんな感じだもの」

 

すると大トトロが、ニヤニヤし始め、

「またパスポートにサインが始まるのかなぁ〜」

とあおリ始める。

隣の人に、

「前にね、俳優の仲代達矢氏に羽田でサインを貰ったんですよ。ねー!」

などと無邪気に自慢している。

 

(その時のブログはこちらから)

 


「パスポートは違法らしいのよね。ノートに書いてもらおうかしら〜」

カバンからA4の旅行用ノートを取り出す。

 


隣の人が驚いて

「監督にサイン貰うの?マジで?」

と慌てふためくので、

「一緒にサインもらいに行きましょうよ、彼、有名人なんでしょ?サッカー部でしょ!」

と誘うと

「嫌ですよ。無理無理!」

などと屁っびり腰。

 


ちょっと様子を見てくるね。元監督がどこの席に着いたか探しに行くと、私達のパーテーションの向こう側で、丸テーブルについて珈琲をお飲み遊ばしながら、どなたかとスマホでお話し中のご様子。

 


席に戻り、

 


「電話中だから今は無理だわ、少ししてからもう一度ね。たった一人よ、寂しそうだわ。一緒に行きましょうよ〜、きっと喜びますよ〜!」

 


しつこく誘っても頑なにノーという元電通マン。大トトロがケラケラ笑っている。

 


「もう一度見てくるわ。えっと、名前なんだった?一度じゃ覚えられない名前よね〜」

ハリルホジッチ!!」

電通マンが呆れる。

 


ハリルホジッチハリルホジッチ…頭で唱えながら、近づく。

 


電話も終わり、たった一人でポツンと寂しそうな背中が見える。

 


その背中に向かって静かに歩み寄り、小声でささやいた。

 

「Excuse me~, Mr. Halilhodzic?」

 

驚かせないように、滅多に出したことのない、アリアンヌ級の可愛い声を出してみた。

 


ハリルホジッチ氏がゆっくり振り向くと

「イェース!」

と即答。

 

年配者の前では上から物申すより下から上目遣いの方が印象が良いはずだ。彼の椅子の真横にしゃがみ込んで、お顔を見上げると、彼も私の顔を覗き込む。

 


余りのハンサムぶりに腰が抜けそうになった。こんな近くに彼のお顔が接近し、しかもテレビで観たことがあるとはいえ、ナマのお顔が目の前に…彫りの深い眉目秀麗な美しさ。あぁ…この人…テレビでよく観てた…。

 


声も出ない見つめ合う数秒の間…。

 


思わず

 

「I…know…you….」

 

まるで映画「昼下がりの情事」のヒロイン、ヘップバーン演じるアリアンヌが、ゲーリークーパー演じるMr.フラナガンに出逢った時のワンシーンのよう。

 


「I'm glad to see you〜〜. 」

うっとりしてしまい、自分でも聞いたことのない驚くような可愛い声が出てしまった。

 


すると、どこか寂しげでいながらも端正なキリリッとしたお顔が、急にほどけたように柔らかくなり、とろけそうな、白薔薇がほころぶとでも言おうか、

 

「日本人、ですか?」

「はい。これからどちらに?」

「マラッカ」

「そうでしたか。貴方のサインを頂きたくて…よろしいですか?」

「もちろん、いいよ、いいよ、」

と、差し出したノートをペラペラめくって、どこに書こうか暫く悩んでいるご様子。最終的に、ノートの背表紙の内側を選び、これまた差し出したボールペンで書き始めた。

 

丸テーブルの真ん中にノートを広げ、悠々と書くその姿は貫禄満点で、書き慣れた手つきで、落ち着き払っていた。

 

「ありがとうございました。

宝物にしますね。良い旅をね」

「あなたこそ」

 

美し過ぎる眼差しが注がれ、言葉ではないなにか見えない糸がお互いを確かに繋いだ。優しい笑顔だけが玉止めのように最後まで残った。

 

このまま彼のボストンバッグに詰め込んで拉致してくれないかと思ったほどだ。Mr.フラナガンのようにサッと私を抱き上げて、映画では汽車だが、この度は飛行機で、知らない遠い国へと彼と旅立つ…日本の新聞には「サッカー日本代表元監督ハリルホジッチ氏、日本人女性と結婚」の見出しが…妄想にかられた。

 

(映画「昼下がりの情事」についてのブログはこちらから)

 

 

 

 

 
足もとがゆらゆらしながらノートを持ち帰る。

 

二人が

「どうだった?」

「どうでした?」

の合唱。

夢見心地でいる暇もない。

 

サイン、もらえたわ。ノートを広げると、二人がノートを覗き込む。

「スゴイ!、スゴ〜イ!」

少年のようにはしゃぐ二人。

 

「写真は撮って来なかったの?」

と呑気な大トトロ。

「そこまで出来ないわよ〜」

 

「ご主人がスマホで撮ろうとしていましたよ」

「え〜?私たちを?」

大トトロが

「うん、パーテーションの上から身を乗り出して撮ろうとしたけど、時間がなかった〜」

がっくりポン。

大トトロに芸能カメラマンのような俊敏な技が出来るはずもない。

 


「これから日本に行くのかと思ったらマラッカに行くんだって!マラッカってマラッカ海峡のことかしら〜」

 

隣の人が

「違いますよ、モロッコですよ。

今モロッコの監督なんですよ!」

スマホを検索しながら現在の状況を読み上げる。

 


大トトロが大笑いして

「マラッカ〜、マラッカ海峡になんて行くわけないよ〜ほんとデタラメなんだよなぁ、こういうデタラメさは電通向きだよ。電通にいっぱいいるよ。そう思いませんか?」

 


電通マン

「いますいます、こういう人が仕事バンバン取ってくるんですよ〜」

などと男二人でビールを飲みながら盛り上がり始めた。

 


私をしばらく放っておいて…  

Leave me alone…

今はもう、彫りの深い顔立ちの彼のことで頭がいっぱい。あの優しい眼差し、花びらのような可憐な薄い唇からもれるたどたどしい日本語。彼の澄んだ瞳の中に私が映ったなんて…。はぁ〜、ため息だわ…。サッカー試合のあの厳しい表情が欠片もない柔らかな表情。

 


スマホWikipediaを検索すると、彼の背中に漂う瀕死の傷を負った孤高の獣のような孤独さの理由が理解できた。

 


ほんの数分だけ、私のMr.フラナガンに出逢えた気がした。ハグは無理でも握手くらいしたらよかった。

 


Mr. Halilhodzic、またいつの日か日本でお会いしたいです。お元気で。

        アリアンヌより

 

 

f:id:chopin2260:20200118111809j:image

 

f:id:chopin2260:20200118111900j:image

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ひと月だけのお試しOK!

f:id:chopin2260:20200118112035j:image

https://wunschewunsche.com/