今日は梅雨をスキップして真夏のような陽射しでしたね✨
ゴルフブログを連チャンしておりますが、もう一つ、大人の事情を書きたいと思います。
あの日も確か今日のような陽射しでした。葉山パブリックゴルフ場は、ショートコースで、クラブも自分で持ち運び、歩いて周る9ホール。同じコースを二回周る人も数多し。
ドライバーが使えるのは2、3ホールのみ。ひたすら歩くので、体力がない日は無理なコースです。私がたまに、一人きりでアイアンのコソ練(コソコソ練習の略)をしている大変お安く周れる、山の中のゴルフ場です。
「最近ラウンドしてるの?」
実家に寄った時に、偶然遊びに来ていた両親の同級生、80歳近いおじ様 Sさんが尋ねるものだから、つい秘密の練習場である葉山の話をすると、僕も行きたい!!とのこと。
カートはないですよ、と伝えても
ショートコースでしょ!行ったことあるよ、と健脚をアピール。
ではご一緒に参りましょうか、と話が進み、当日現地で待ち合わせると、ゴルフショップのマネキンが着ているような若者向きの爽やかなウエアに身を包み、お顔は満面の笑み。
Sさんは、小学校から高校まで、両親と同級生だった鹿児島男児。しかし、日本が戦争に負けた戦後の時代、食べるものもなく、Sさんには4人のお姉さんに更に弟もいて、かなりの栄養失調だったらしく、身長も150cmちょっとしかない小さなおじ様なのです。小学生の頃から病弱で、体育の時間はいつも木陰に座らされて見学だったのよ、とよく母から聞いていました。
そんなSさんが、ゴルフが上手いとは、意外だったのです。ゴルフウエアをバッチリ着こなし、と言っても、白とブルーのストライプのパンツを、おそらく数十センチは裾上げしたであろう短いおみ足で、水色のポロシャツの襟まで立てて、若者のごとくに、これ以上ないオシャレをしているのです。
横に並ぶとSさんが私を見上げ、今日は美女とラウンド出来て嬉しいです、といつもと違う軽いノリ。(何度も言いますが、私が生まれた時からの知り合いです。)
最初のティショット、お互いミスもなく、お、やるね!ナイスショッ!と声を掛け合っているうちに、すっかり打ち解けるのが、このゴルフという不思議なスポーツ。年齢差などすっかり忘れて、前の組が打ち終わるのを木のベンチに座って待つ。前の組みが、私達を見て、ん?どういう関係?とでも言いたげに、先に進む。
遠くに横須賀の海が広がり、その向こうには、うっすらと房総半島も見える。
緑に囲まれた標高の高い山に、爽やかな風が流れる。ゴルフ日和。いつもより人が多い。前が詰まって、ついに後ろの組まで、ベンチで待ち。
その間、水を飲んだり、各クラブのスイングを教えてくれるSさん。薩摩隼人だから語調も強く容赦なく猛特訓。
その様子を眺めている後ろの60代後半くらいの夫婦が、何かヒソヒソ話しては笑っている。
私達のことに違いない。
さぁ、ここは、珍しくドライバーでティショットのホール!
「頑張って!」
Sさんが、シュッシュッと2回素振りをして、ドライバーをぶちかます。
あれ〜?!!力を入れすぎて、3m先にポトン💧
私は叫んだ。「もう一回やり直し!」
Sさんは即やり直し、ドッカーンと見事なティショットを見せた。思わず近寄り、ハイタッチ。
すると、後ろ組の夫婦の奥さんが、2度打ちは駄目だよ!!と太い声で怒鳴った。
Sさんは真っ赤になり、頭を下げる。
前の組も詰まっているのだからいいじゃない、パブリックなんだし…年配者に向かって何事?内心ムカッとしながら、その微妙な怒りでヒートアップし、私も続いてティショット!
おのれーー!ドッカーーーん!!
真っ直ぐ山坂に沿って伸びていく白いゴルフボール。
今日イチの飛距離が出た。
またまた2人してハイタッチ。
さぁ、どんどん行きましょう!
後ろ組に会釈し、セカンドショットまで芝生を登り歩く。
次のホール、また前が詰まって進まない。ベンチに座り、調子が狂いますね、などと話していると、後ろ組もやってくる。ベンチには4人。
後ろ組のご主人が、Sさんを見ながらケタケタ笑う。体格は小さいが、気持ちは強いSさん。自分が笑われていることに動じない。私はなんて失礼な人たち、とシカトを決め込む。
ラウンドしながら、Sさんに
「後ろの組が嫌な感じですね」と話すと
「そう?まぁ、パブリックだからいろんな人がいますよ」と冷静な返答。
気にしていないんだ、それなら良かった。私も安心してクラブを振り回し、Sさんとはますます、親の幼なじみとも思えなくなり、気持ちの距離が縮まっていく。Sさんも楽しそう。
またベンチ。
後ろ組がまたまたやってくる。
どうしても、私達の関係を聞きたくて仕方がないご様子が、見てとれる。
「若い女性とゴルフ出来ていいねぇ、相当、年が離れているんじゃないの?」
でた。
にやにやと下品な顔をSさんに向けている。Sさんはポーカーフェイス。
「そうですね。僕たち32歳、離れているんですよ。僕は◯年で君は◯年だよね。」と私に同意を求める。君…。
とっさに計算し、それがズバリ当たっていることと、どうして私の干支まで知っているのかと驚きながらも、平然と
「そうですね。」とポーカーフェイスを真似て、まるで貞淑な妻の装い。
後ろ組のご主人がニヤニヤと
「ご主人◯年ですか?それにしちゃ若い若い。しかもそんなに年齢が離れているんですか。凄いなぁ!!ご立派!!」
などと、半分からかっている。
実は、両親の同級生なんですよ、と言って事情を話したいところだが、Sさんは口を一文字にし、一切私のことを話したくないご様子。
この貧相な男に、どうしてこんな若い女性が楽しそうに2人でラウンドしているのか?それとも、この男が大金持ちなのか?そうなのか?
後ろ組のご主人は納得がいかないご様子。ついに
「若い奥さんで大変ですね〜」などと
妄想して妙な事まで言い出す始末。
Sさんは終始ポーカーフェイス。
「さ、行くぞ!」
Sさんの語調が薩摩隼人の旦那のような命令口調の台詞になっていく。
「はい、参りましょう!」
などと、調子を合わせ、薩摩おごじょになりきる私。後ろ組はあっけにとられている。
ついに最後のホールまできた。
ここはドライバー出動だ。
後ろ組が仁王立ちで私達を見ている。
ドッカーン!
ナイッショ!!
私も続いて
ドッカーン!!
2人して眼を見張る快進撃。真っ直ぐボールは伸びていった。
後ろ組に
お先に失礼します、と丁寧に会釈し、
クラブバッグを肩にかけ、芝生を下り歩く。Sさんは沈黙している。
急に私の母性本能が頭をもたげ、Sさんが可哀相になった。
失礼な後ろ組に、妙な質問を浴びせられながらもじっと耐えている、かつてひ弱だった鹿児島男児。侮辱には慣れているのであろう。侮辱されても平然と呼吸を整え、終始、紳士である姿を崩さない。これぞまさしく、薩摩の血だ。
私は芝を歩きながら、
「Sさん、手を繋ぎましょう!」
と彼のグローブをはめた左手を握った。
Sさんは、え?え?は?と驚愕して私を見る。
「後ろの2人が見てるから、最後は夫婦だということを見せつけましょう!」
私の意を理解したSさん。
手をぎゅっと握りしめただけでなく、
急にスキップをし始めたのだ。
芝生の上で足がからまって、時たま転びそうになる。
キャー♡
ワハハ〜♡
キャハハー♡
葉山の山奥に笑い声がこだまする。
手を繋いでスキップしながら、はるか彼方のセカンドショットの芝まで、時を忘れ、己を忘れ、映画のワンシーンのような一コマ。今でも脳裏に焼き付いて離れない。あの一瞬の空。あの芝生。あの微風。Sさん、楽しかったね!本当に楽しかったね!
その後どうなったかと申しますと、
Sさんが頻繁に実家に電話をかけてきては、お嬢さんとゴルフをしたいんだけど、と父に訴えるそうで、父があきれて、あいつどうしたんだ!人の娘にストーカーみたいに!!ついに認知症が始まったか?とSさんは両親に密かに心配されている模様です。
Sさん、またラウンドしましょう。